Cases of Concern

骨が薄い・足りない場合のインプラント

インプラントができない場合とその対処法

インプラントは歯を補う治療としては優秀ですが老若男女、誰でもインプラント治療が受けられるか……というと、残念ながらそうとは限りません。歯や骨の状況、特定の体質や習慣によっては適応が難しい場合もあります。
ここではインプラント治療を適応できない、提案できないケースを解説しながら、その場合にどう対処したらいいかをご説明します。

骨が薄い・少ない方(骨粗鬆症の方)の場合

インプラントの土台となる「人工歯根」は、歯ぐきの内側にある「歯槽骨」に埋め込みます。そのため、歯槽骨に十分な厚みと高さがなければ基盤として安定しません。インプラントを埋入できたとしても、咀嚼などによる負荷に耐え切れずに抜けてしまったり、折れてしまったりする可能性があります。

住宅に置き換えて考えてみましょう。歯槽骨は土地、インプラントは家の役割を果たします。もしも緩い地盤の上に家を建てると、地震などの災害で簡単に倒壊する可能性が高いです。インプラントもそれと同じで、歯槽骨の状態が良くなければ治療を始められません。

骨の量を増やす(骨造成)

骨粗鬆症の患者様は、「骨造成」という骨の量を増やす治療を行ってからインプラント治療に移ります。フィクスチャーを埋め込む箇所の骨密度が上がれば、土台が安定します。

治療方法

虫歯・歯周病の進行が大きい方

重度の歯周病や虫歯が見つかった場合、先にこれらの治療を行います。インプラント治療中に歯周病菌や虫歯菌が口腔内感染を引き起こし、顎の骨と人工歯根が結合しにくくなるためです。また、インプラント治療後に関しても、歯周病菌が原因でインプラントの周辺組織を破壊する「インプラント歯周炎」を引き起こすリスクが上がります。

虫歯・歯周病の治療、また歯茎の治療の提案

当院では、安心・安全にインプラント治療を受けていただくために、インプラント手術前に虫歯・歯周病の検査を行います。何らかの問題が見つかった場合、当院が責任を持って治療に取り組ませていただきます。

全身疾患や術後の方

  • 高血圧
  • 心疾患
  • 糖尿病
  • 脳梗塞・脳卒中の術後から間もない方

糖尿病の患者様は血糖値をコントロールできないため、免疫力が低下している可能性が高いです。歯ぐきにメスを入れた後の回復が遅れたり、インプラント周囲炎を発症する可能性が高くなったりするため、原則としてインプラント治療が不可能です。

腎疾患をお持ちの患者様も免疫力が低い場合が多く、骨も脆い傾向にあるため、インプラント治療ができません。人工透析を行っている方の場合、インプラント手術中に口腔内の細菌が腎臓に回ると危険なため、やはりインプラント治療は困難です。その他、心筋梗塞・脳梗塞・脳卒中を発症した場合、原則として6ヶ月以内はインプラント治療を行いません。

かかりつけ医と相談の上、対応します

糖尿病の患者様でインプラント治療を希望される方には、かかりつけ医へのご相談をおすすめしています。糖尿病を患っていたとしても、血糖値のコントロールが可能であるとの診断を受けられれば、糖尿病に関連するリスクは考慮せずにインプラント治療を行えます。腎疾患の患者様も、透析治療を受けていない方や、症状が軽度な場合ならば、口腔内の状態が良ければインプラント治療が可能です。心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中を経験された方も、まずはかかりつけ医にご相談ください。経過に問題がなければインプラント治療を行える可能性があります。

妊娠中の方

インプラント治療では、手術・投薬・レントゲン撮影を行うため、母子の健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。妊娠中にインプラント治療を行う方もいますが、念のために妊娠中のインプラント治療は避けたほうが無難です。また、妊娠中や出産直後にはホルモンバランスが乱れるため、精神面でも不安定になるかもしれません。インプラント治療に関する不安や悩みと重なり、出産・育児に悪い影響を与える可能性もあります。
これらの事情により、当院では妊娠中のインプラント治療をおすすめしていません。

妊娠期の応急処置、出産後に提案

妊娠中に歯を埋めたい場合は、インプラント治療ではなく入れ歯治療がおすすめです。妊娠中は入れ歯でやり過ごしておき、出産後に改めてインプラント治療を行う道もあります。
どうしてもインプラント治療にこだわるならば、安定期を過ぎた妊娠5ヶ月目以降にインプラント体の埋入を行いましょう。出産までの約5ヶ月間をインプラントが安定するまでの時間に充て、人工歯の取り付けは産後に回せるため、リスクを軽減させられます。ただし、この時期はあくまでも出産を最優先にすべきですから、まずは産婦人科の担当医にインプラント治療を受けても良いか確認しましょう。

喫煙習慣がある方

日常的に喫煙をされる患者様は、残念ながらインプラント治療が不可能なケースが目立ちます。
その理由は、血行不良が原因で患部の治癒能力が下がり、人工歯根と顎の骨が結合しにくいためです。喫煙をすると一酸化炭素の影響により血行が悪くなり、患部の血液量が減ってしまいます。タバコに含まれるニコチンにも血管を収集させる作用があり、これも幹部への血流が阻害される原因のひとつです。
さらに言えば、喫煙者の方ほどインプラント歯周炎の発症率が上がるため、術後のトラブルも起こりやすくなります。これらの事情により、ヘビースモーカーの方はインプラント治療ができない可能性が高いです。

治療中・治療後は禁煙が必要です

インプラント治療を希望される喫煙者の方には、インプラント治療期間中の完全禁煙をお願いしています。インプラント治療が完了し、患部の傷が塞がった後も、インプラント周囲炎などのトラブルを避けるために、できる限りの禁煙をおすすめします。

患者様の年齢が若い方(未成年など)

ほとんどの歯科医院が18歳未満・20歳未満の患者様のインプラント治療をお断りしています。
これは未成年の方の場合、現代の医学では「数年後に顎がどのような形に成長するのか」「骨がどれくらいのスピードで成長するのか」を予測できず、インプラント治療で顎の骨に穴を開ける治療がどのように影響するか不明な点が多いからなのです。成長次第では、埋入したインプラントに不具合が生じる恐れがあるため、原則として未成年の方にはインプラント治療を行えません。

適齢期になるまで別の治療方法を提案するケースもあります

未成年の患者様には、顎や骨の形が安定するまでインプラント治療を控え、その他の方法で治療を行うことをおすすめします。たとえば一時的に入れ歯治療を行って経過を観察し、顎の成長が完了したと認められる段階で、インプラント治療に切り替えると良いでしょう。

骨が薄い・少ない場合の治療法

骨の量を増やす治療方法 ① :GBR法(骨組織誘導再生法)

GBR法は「骨再生誘導法」とも呼ばれる、歯肉と骨の間に膜を張って骨の再生を促す治療法です。骨組織よりも再生スピードが速い歯肉の成長を物理的に抑えることにより、骨が再生するまでの時間を稼ぎます。一般的にはインプラント治療前にGBR法による治療を実施しますが、一定の骨量がある場合は、インプラントの埋入とGBR法を同時に行うことも可能です。

GBR法をおすすめするケース

GBR法が適しているのは、重度の歯周病で骨吸収が進んだ方や、骨の減少により歯槽骨を失った方です。患者様の自仮骨を使ってインプラントを埋入するスペースを作れます。

GBR法の治療前の注意点

  • 個人差がありますが、術後1週間は腫れや痛みを伴う場合があります
  • 全身疾患のある方や喫煙者の方は、完全な形で治療できない可能性があります

骨の量を増やす治療方法 ②:ソケットリフト

歯槽骨の高さが足りず、インプラントを埋入できないときの治療法が「ソケットリフト」です。後述するサイナスリフト法とは異なり、歯槽骨から専用の器具を使って上顎洞低部を押し上げて、骨補填材を充填します。骨造成と同時にインプラントを埋入できるため、治療期間を短縮しやすいこともソケットリフト法の特徴です。

ソケットリフトをおすすめするケース

ソケットリフト法をおすすめできるのは、歯槽骨の吸収が少なく、3~5mm以上の厚みが残っている患者様です。短期間で治療が完了し、骨への負担も少ないため、条件を満たす方にはソケットリフト法をご提案しています。反対に歯槽骨の欠損が激しい場合はソケットリフト法による治療が不可能なため、サイナスリフト法などによる治療をおすすめします。

ソケットリフトの治療前の注意点

  • ソケットリフト法の適応には歯槽骨に3~5mm以上の高さが必要なため、治療できる患者様が限られます
  • 多くの歯が欠損している場合も、ソケットリフト法は適応できません

骨の量を増やす治療方法 ③:サイナスリフト

サイナスリフトは、目の下あたりの高さまで歯ぐきをめくって穴を開け、上顎洞に向けて切開した穴から骨補填材を注入する治療法です。半年程度の時間をかけてゆっくりと骨をつくってからインプラント治療を行います。

サイナスリフトをおすすめするケース

サイナスリフトをおすすめできるのは、骨の厚みが3~5mm以下と薄い場合や、骨の量が著しく少ない場合、多数の歯を失っている場合です。先述したソケットリフト法では対応できない患者様も、サイナスリフトなら治療できる可能性があります。

サイナスリフトの治療前の注意点

  • 別途料金となります
  • ソケットリフト法よりも大掛かりな治療のため、患者様の負担が大きくなる可能性があります
  • 埋入したインプラントが骨にしっかり癒着するまでに、約1年間の期間が必要です

インプラントに伴う歯茎の治療

歯茎とインプラントの関係性

インプラント治療が成功するかどうかは、歯ぐきの健康状態次第と言っても過言ではありません。健康な状態と比較して歯ぐきが下がっている場合、インプラント治療の前後で歯ぐきのトラブルが起こりやすくなるためです。

歯ぐきが下がる原因としては「歯周病」「加齢」「歯ぎしり・食いしばり」「矯正」「ブラッシング(歯みがき)」などが挙げられます。健康のために熱心に歯みがきを行ったことが原因で、歯ぐきを下げることもありますが、その場合はインプラント治療前に「FGG(遊離歯肉移植術)」や「CTG(結合組織移植術)」といった治療を行うことで、術前・術中に歯肉トラブルを引き起こすリスクを抑えられます。FGGとCTGはどちらも歯肉移植の手術で、歯肉組織を再生させることにより、下がった歯ぐきを引き上げることが可能です。

FGGとCTGは治療目的が同じこともあって混同されがちですが、手術方法は大きく異なります。ここからは、FGG・CTGそれぞれの治療にはどのような違いがあるのかを解説します。

FGG(遊離歯肉移植術)とは

歯ぐきは「稼働粘膜(動く部分)」と「角化歯肉・付着歯肉(動かない部分)」の2つに分かれます。このうち、健康な歯を維持するために特に重要なのは角化歯肉です。
FGG(遊離歯肉移植術)では、上顎の角化歯肉を切除して、歯根などに移植します。移植によって粘膜を増やし、歯ぐきの後退を改善できるのです。

APF(歯肉弁根尖側移動術)とは

APF(歯肉弁根尖側移動術)は、歯肉の維持または増加、歯周ポケットの除去を目的に行う治療法です。
歯肉の薄さや、歯周病が原因で深くなった歯周ポケットを改善し、歯ぐきを健康な状態(シャローサルカス)へと導きます。

CTG(結合組織移植術)とは

CTG(結合組織移植術)は、歯ぐきの後退により露出した根幹部分を、歯肉で覆い直す治療法です。上顎の口蓋から結合組織だけを採取して、歯ぐきが痩せている部分に移植して歯肉を増やします。歯肉が痩せている場合や、抜歯後に陥没した箇所がある場合などに有効です。

他医院で断られたケースも一度、ご相談ください

当院はインプラントの難症例にも対応できる歯科医院です。「顎の骨が薄い」「歯ぐきのトラブルがある」などの理由により、他院でインプラント治療を断られてしまった方も当院にご相談ください。骨造成などの方法で口腔内の環境を改善することにより、インプラント治療をはじめられる可能性があります。天然歯のような美しい見た目と、噛み心地の良さがインプラントの特徴です。諦めずに治療法を模索して、満足度の高い治療を受けましょう。